メニューを考案する美食家ドダンと、それを完璧に再現する料理人ウージェニー。料理への情熱を共有するふたりと、料理が主役の映画です。
調理過程、運ばれる料理、食する様子が、劇伴なし、会話も最小限に映し出される冒頭20分で、この映画にすっかり心を掴まれました。
クリエイティブなメニュー、食材への知識、手際のよさ、使い慣れた調理具を操り、仕上げの盛り付けのセンス!一方、目で楽しみ、食して幸福感に包まれる人々の表情!この映画は、人のお腹と心を満たして料理は完結するということもこだわって描いています。
そして、ドダンの料理を表現する言葉の美しさ!でも、料理人ウージェニーは、決して料理を言葉に換えません。どうぞ味わって。好きなように感じて。なんですね。
料理人の素質を持つ少女ポーリーヌの存在も重要でした。ドダンは調理過程で彼女に「この味を覚えておきなさい」と言い、味の変化を学ばせます。クセの強い食材に対しても同様にし、やがてこの美味しさがわかる時がくると教えます。料理は伝承であり学びです。
料理の魅力の全てを気づかせてくれる映画ですが、ドダンとウージェニーの愛のかたちにも魅了されました。特に映画の最後の台詞!ふたりの関係が見事に表現された完璧な台詞です。
監督はトラン・アン・ユン。デビュー作『青いパパイヤの香り』(1993)が大好きですが、本作では、料理を介してさらに深い愛を見せてくれました。