20世紀初頭、アルプスの人里離れた農場に引き取られた孤児のエッガー。暴力と貧困に耐えた幼少期。農場を出て渓谷に住処を持った青年期。最愛の人と出会い、戦争ではソ連軍の捕虜になり、近代化の波を見つめる晩年期。
いくつもの試練に誠実に向き合い、選んできた道を黙々と踏みしめながら生き抜いた男の、80年にわたる一生が描かれます。
原作小説も読んでみたいと思っています。でも、こんなに激しい感動は、間違いなく映画ならではのもの!
幼いエッガーが馬車に乗っている姿をずっと後ろから映し続ける印象的なオープニング。その後も度々登場する彼の歩く後ろ姿のシーンで、彼が背負うものと彼が働き続けていることを背中に象徴させ、時代ごとに演じ分ける3人の俳優(全員が素晴らしい!)の入れ替わりにも背中のシーンを使うという表現は、映画でしか味わえません。
そして、背景ではなく主役のひとつとして全編に存在し続けるアルプスの山と谷。どうやって撮影したのだろうと驚くほどの美しさと残酷さに鳥肌が立ちました。
映画が見せてくれた彼の一生が、脳裏に焼き付いて離れません。
(2023年/ドイツ=オーストリア/監督:ハンス・シュタインビッヒラー)