幻の光

是枝裕和監督の長編デビュー作であり、1995年12月9日から14年間存在した渋谷のミニシアターのオープニング作品。今年1月に能登半島で起きた地震で大きな被害を受けた本作の舞台でもある石川県輪島市への、支援を目的としたデジタルリマスター版劇場公開です。

記憶には、時と共に場所や風景が刻まれます。その時自分がいた場所や、背景に広がっていた風景は、記憶を永遠に忘れさせてくれない残酷さがありながら、今、自分が生きていることを実感させてもくれる。映画を観ながらそう強く思いました。そして、ラスト近くの印象的なセリフが観終わったあともずっと残り、幻の光とは何なのか、29年ぶりの鑑賞で私なりに理解できた気がしました。

ひとりの女性のささやかな幸せに包まれた日常が突然失われ、やがて形を変えた日常が生まれるという物語のなかで、子供たちが新たな家族の形に馴染んでいく様が映画の持つエネルギーに繋がっているところに、是枝監督作品の真髄を見出しました。

(1995年製作/日本/監督:是枝裕和)