渡辺儀助77歳。元大学教授で今はリタイア。妻に先立たれている彼は、自分のペースで日々を丁寧に暮らす。毎日の料理を自分で作り、珈琲豆を挽いて食後に飲む。時に晩酌も楽しみ、時々家に訪れる元教え子に不純な期待を持ったりもする。預貯金の残高と生活費があと何年持つかを計算し、自分の寿命を知ることが潔く生きるモチベーション。そんな、自己管理を徹底しながらも穏やかな老後を過ごす儀助の元に、ある日突然「敵」が現れる。

敵とは何なのか。本当に敵なのか。逃げるべきなのか。

儀助の生活を眺める心地よい前半から一転、敵に儀助の日常が侵食される後半のカオス状態・・・映画に漂う空気がこんなに変わるとは!人間の滑稽さに思わず笑ってしまう部分も。

そして原作にはなかったというラストの大団円。俳優を信じ、俳優が応えるからこそ生まれる映画ならではの表現を、存分に堪能するラストシーンに鳥肌です。

長塚京三、瀧内公美、黒沢あすか、河合優実、松尾諭、松尾貴史、カトウシンスケ、中島歩。全員が他に考えられない最高のキャスティング。

映画では、敵が何かということを明示しません。でも私はこの映画で、私の前にも来るべき時に現れる「敵」の正体を知りました。
そして「さあ来い!」という気持ちになりました。何とも愉快で、心に染みる映画でした。

(2024年/日本/監督・脚本:吉田大八)