ゴーストワールド

『アメリ』に続けて懐かしい映画を観ました。

バカなクラスメイト、つまらない大人たち・・・くだらない世界を彷徨いながら自分の行くべき道を探すアウトサイダーなふたりの少女の物語。社会と折り合いをつけずに自分の価値観を貫こうとする少女の映画といえば、最近も、『レディ・バード』や『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』といった魅力的な映画がありました。

その中で『ゴーストワールド』が突出しているのは、少女が、ダサくても自分の世界を持っている中年男に惚れるという展開を入れたこと。そのことで、この映画は、ちょっとつらくて、でも何とも愛おしい余韻を残すのです。

そして心掴まれるラストシーン!あ~やっぱり大好きな映画でした。

興奮冷めやらぬ中、2001年の東京のミニシアター史を振り返ってみました。『ゴーストワールド』を上映したのは恵比寿ガーデンシネマ。同館ではこの年『17歳のカルテ』が大ヒット。Bunkamuraル・シネマは『初恋のきた道』『花様年華』、シネセゾン渋谷は『PARTY 7』、シネマライズは『キャラバン』、シネクイントは『ギャラクシー・クエスト』、岩波ホールは『山の郵便配達』がヒットした年。そして、この年にシネスイッチ銀座で上映しロングラン大ヒットした『リトル・ダンサー』は、私にとって、生涯一番思い入れの強い特別な映画になりました。

アメリ

緑と赤のチラシが映画館に並び始めた時から懐かしさでいっぱいに!『アメリ』を20年ぶりに映画館で観ました。

あまりにも懐かしいので、2002年の東京のミニシアター史を調べてみました。この年、『アメリ』がシネマライズで8カ月もの超ロングランを記録。2スクリーンを持つ同館は同時期に『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』を上映しこちらも大ヒット。向かいのシネクイントが同時期に上映していたのが『メメント』。Bunkamuraル・シネマは『エトワール』、恵比寿ガーデンシネマは『おいしい生活』、シネセゾン渋谷は『アモーレス・ぺロス』、シネスイッチ銀座は『ピアニスト』がヒットした年でした。・・・大好きな映画ばかり!

『アメリ』は、キュートでシュールなシーンがポストカードをめくるように次々と展開する映画。黒い瞳と短い前髪、クリームブリュレ、豚のランプ、モンマルトルの街並み。ビジュアルのひとつひとつが強い分物語の記憶が薄い映画でした。でも今回は、周囲の人たちを今よりほんの少し幸せにしてあげることに幸せを感じるアメリが、周囲の人たちに背中を押してもらって恋を実らせる物語に夢中に!「世界と調和がとれたと感じた。人生は何とシンプルで優しいのだろう」というセリフが心に沁み込みました。

映画の朝ごはん

おにぎり二個、おかず一品と沢庵。そんなシンプルなお弁当を提供する、ロケ弁として有名なお弁当屋さん「ポパイ」のドキュメンタリーです。


名だたる映画人たちが次々に登場しポパイのお弁当が特別な理由を証言するインタビューと、合間に映る調理場の様子。炊き立てごはんの幸せな湯気の映像にうっとりしていたら、ポパイにお弁当を発注した制作部の、ベテランさんと新人くんの仕事を追うパートに移り、そこから映画制作の実態や日本映画史にまで踏み込んでいきます。

ポパイのベテラン従業員さんの「ご飯で身体が満たされていれば作る映画は必ず良くなるのよ」という言葉が印象的です。「食事のシーンが記憶に残る映画に傑作が多い」というのが昔からの私の持論。ご飯と映画のいろいろな関係が見えてきました。

老舗のポパイは時代の変化に対応して商売を続けるけれど、働く従業員たちひとりひとりは今日も変わらずお弁当作りに人生を捧げている。映画の現場も同じことが言えます。ご飯も映画も、ますます好きになるドキュメンタリーでした。中身がギュッと詰まっていてお腹いっぱいになったのに、しばらくしたらもう一度、ワンシーンワンシーン噛みしめながら観たくなってきました。

ザ・キラー

デヴィッド・フィンチャー監督×アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー脚本。『セブン』『ファイト・クラブ』コンビでの久々の新作『ザ・キラー』を観ました。

長いキャリアのなかで初めて任務に失敗した暗殺者が、雇い主から消される運命に抗い、復讐の殺しを始めるというストーリー。映画は終始、主人公が今考えていることをナレーションで聞かせるのですが、それが何とも哲学的で、演じるマイケル・ファスベンダーのクールな容姿と相まって惚れ惚れ。ルーティンに体を鍛え、常に痕跡を消しながら行動する彼の一挙手一投足から目が離せなくなり、そして終盤、ティルダ・スウィントン演じる女との1対1の会話のシーンが、映画の中で最もスリリングで恐ろしく背筋が凍りました。

全編ピンと張り詰めた冷たい空気が漂いますが、格闘シーンは激しく過激!このコントラストの妙こそがフィンチャー作品の魅力です。ミュージックビデオ監督出身、彼が手掛けたマドンナの「エクスプレス・ユアセルフ」と「ヴォーグ」は大好きなMVです!

パトリシア・ハイスミスに恋して

米女流作家で多くの映画の原作者でもあるパトリシア・ハイスミスの人生と素顔に迫るドキュメンタリー。本人が映るアーカイブや関係者インタビュー、原作映画の名場面など様々な映像で構成されますが、生誕100周年を経て初めて発表された日記から抜粋される“言葉“がとりわけ印象に残り、ヒッチコック魔術全開の『見知らぬ乗客』も、『太陽がいっぱい』や『リプリー』も、自伝的小説の映画化『キャロル』も、観た当時とは違う解釈が見えてきました。文学の神に愛された人間の、言葉の表現力は凄い!

 

彼女の日記には失望という単語が度々出てきますし、小説を書く理由は許されない人生の代わりとも書いていますが、小説を書くことで人生から逃げたわけではなく、人生に決着をつけていたのではないかと思いました。思い通りにならないことばかりなのが人生。でも、ひとつひとつにしっかり決着をつけて、前進したいものです。

アアルト

北欧を代表する建築家でデザイナーのアルヴァ・アアルト。彼の人生と作品を巡るドキュメンタリーです。

25歳で建築事務所を設立。35歳で家具や照明器具、テキスタイルを扱う「アルテック」を創業。どんな仕事でも、原理原則を離れ作品にオリジナリティを出す姿勢を変えず、そして常に人と自然が主役。彼の作品が、フィンランド人の日常に溶け込んでいると言われる理由が見えてきます。クライアントよりも職人を大事にしたアアルトのエピソードが好きでした。


2019年夏にフィンランド旅行をしました。目的は、大好きなアキ・カウリスマキ監督の経営する映画館とバルに行くことと、もうひとつがアアルトのアトリエに行くことだったんです。無事アトリエに辿り着いたのがちょうど設計士たちの仕事時間で、間近で見学しました。至福の時間でした。アアルトの自邸と、彼が手掛けたヘルシンキ大学にも行きました。大学構内の階段の手摺りがとても心地よかったことと、図書館の椅子の美しいフォルムが印象に残っています。