ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ

観終わったあと、3人が過ごしたクリスマス休暇のひとコマひとコマを思い出し、心が満たされ続けました。あー、大好きな映画!

堅物の古代史教師ハナム。飛びぬけて成績優秀だが反抗的な生徒アンガス。ベトナム戦争で息子を失った料理長メアリー。3人とも無愛想で警戒心が強いので小さな衝突ばかり。でも、すでに第一印象から3人は気持ちが通じ合うことがわかるので、心の距離が少しずつ近づいていく過程を、ゆっくり見守ります。

やがて知ることになる、3人それぞれが抱える痛み。

この映画は、登場人物たちの心のロードムービー。舞台は殆どが3人が居残る校舎の中なのに、何て奥行を感じる映画なのだろう。それぞれのこれまでの人生の道のりがここに行き着き、この校舎で交差し、そしてまたそれぞれの人生の道がはじまる様子が見えてくるのです。

メアリー役タヴァイン・ジョイ・ランドルフに泣かされます。孤独と必死に闘っている人の手を握るメアリーの、無言の優しさ!

子供はやがて人生に飲み込まれる。だから今、できることをしてあげて。そんな台詞がでてきます。でも、大人も否応なく人生に飲み込まれることがあります。そんな時に、ふと思い出し、自分を保てるような、こんな数日間の休暇を過ごせたら最高です。

(2024年製作/アメリカ映画/監督: アレクサンダー・ペイン )

あんのこと

2020年に新聞の三面記事に掲載された実話に着想を得たという映画。母親から壮絶な虐待を受け続け、ドラッグに溺れた杏が、型破りな刑事と訳ありな週刊誌記者に出会い、更生の道を歩き始めますが、過酷な現実に直面します。

杏を演じる河合優実が凄くいい!

映画『由宇子の天秤』『サマーフィルムにのって』、テレビドラマ「17才の帝国」と、脇役ながら存在感のある彼女を続けて見て、俄然注目したのが2年前。そして今年。テレビドラマ「不適切にもほどがある!」のハマり役で波に乗った!

この映画のヒリヒリとした痛みは、河合優実が杏として確かに存在しているからこそ受ける感触。憤りをぶつける気迫にあふれた激しいシーンも印象的ですが、学校に通えるようになり、夢中で勉強している時に口元がほころぶ様子や、一字一字刻むように日記をつける時の指の動きなど、繊細な表現に心を鷲掴みにされます。

だから、杏に人生の希望を見出してもらいたいと必死に祈ってしまうし、杏のような少女ひとりすら救うことができない大人たちが本当に情けない!

杏を演じるにあたり「彼女と心の中でしっかりと手を繋いで、絶対に離さず、毎朝、今日もよろしく、いってきますとお祈りして撮影に向かっていました」というコメントを読んで、凄いなあと感動しました。最新作は、今年のカンヌ映画祭で国際批評家連盟賞した『ナミビアの砂漠』での主演。9月の公開が待ち遠しいです。

(2024年製作/日本映画/監督:入江悠 )