ルックバック

3年前に原作を読んだ時の衝撃は忘れられません。「もしも、こうだったら」というあり得たかもしれない世界を描くことによって、夢なかばで未来を奪われてしまった人々の魂を救った凄い漫画!ちょうど同じ頃に映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観たということもあって、映画や漫画や小説といった創作物が持つ、現実とは違う別の人生を誰に対しても与えることのできる力に圧倒されました。

そして3年ぶりに再び『ルックバック』。今回の劇場アニメには、作品の持つ力以上に、藤野と京本の存在感に圧倒されました。ふたりの、絵が上手くなりたいと努力する姿!そして相手の存在が自分を奮い立たせるという関係性!原作者 藤本タツキさんの創作物に多くのスタッフや声のキャストたちがさらに生命力を注ぎ込んだことで受け取ることのできた感動でした。

私も好きなことのためにもっと努力したい、好きなことがもっと上手くなりたい、という気持ちを持たせてくれた凄い映画です。

(2024年製作/日本映画/原作:藤本タツキ/監督:押山清高)

フェラーリ

自動車メーカー・フェラーリ社の創業者エンツォ・フェラーリが最も苦境に陥った1957年。業績不振で会社経営は危機に瀕し私生活も破綻。窮地の彼が起死回生をかけて挑んだレース“ミッレミリア”の真相と、その後の顛末が描かれます。

車体のフェラーリ・レッドは目の覚めるような美しさ。でも、車体が路面に作り出す黒い影が全体を覆っているようなイメージが残る、暗く危うく緊張感に満ちた人間ドラマです。

そして夫婦のドラマ。

監督はマイケル・マン。『ヒート』のアル・パチーノとロバート・デ・ニーロ、『インサイダー』のラッセル・クロウとアル・パチーノなど、2人の男の緊迫感あふれる対決を描く作品が多いですが、本作は、アダム・ドライバーとぺネロ・クルス、男女ふたりの俳優の演技が見どころです。

アダム・ドライバーは、『ハウス・オブ・グッチ』に続く容姿を活かした役どころでカリスマのプライドと焦りを体現。そして、幼い息子との会話シーンで、車に乗って勝つことより車の構造を理解して早く走らせることが好きという自分の話に、熱心に耳を傾ける息子が愛おしくて仕方ないという演技が印象的。一貫して冷徹な人物として描かれるフェラーリの、別の一面が現れます。

そして、共同経営者であり妻であるラウラを演じたペネロペ・クルス。疲れ果て常に怒りに満ちた形相の彼女が、ある決断を夫に話す映画のラスト近くの長台詞シーンで、はっとするほど美しく輝きます!女として、母としての強い生き様に惚れ惚れしました。まさに『オール・アバウト・マイ・マザー』です。

(2023年製作/アメリカ映画/監督:マイケル・マン )

クワイエット・プレイス:DAY 1

「音を立てたら即死」というキャッチコピーがインパクトを放った『クワイエット・プレイス』。音を立てるもの全てに襲いかかる“何か“が大群で現れ、世界が崩壊するなか、“沈黙”を守り生き抜こうとする者たちを描くサバイバル・ホラー。本作はシリーズ3作目にして1作目の前日譚です。

異常な状況のなか、身重の女性が出産し、家族を守り、今度は子供たちが家族を守ることで成長するのがシリーズ1作目と2作目。極限状態の中だからこそ描ける“母の強さ“にシビれました。このシリーズが好きなのは、恐怖の要素以上に感情に訴えてくる、エモーショナルなところなのです。

そして本作は、重い病気を抱えた女性が主人公。彼女の行動に意表を突かれます。それは、生き抜くためのサバイバルじゃない。救助の先に向かって全生存者が逃げるなか、彼女だけが逆の方向に、人とぶつかりながらも走り続けます。世界の終わりを知るDAY 1に、彼女はどこに向かおうとして、何をしようとするのか。それが終盤になってわかった時、目頭が熱くなりました。

偶然出会ったイギリス人青年との間に生まれた絆にもシビれます。そして、彼女の相棒の猫!猫は、鳴かず音も立てずに歩くので、平常心の象徴であり癒しとなって存在し続けます。ふと姿が見えなくなっても、彼女が必要とした時に必ず戻ってきて、傍にいてくれました。

(2024年製作/アメリカ映画/監督: マイケル・サルノスキ )