シビル・ウォー アメリカ最後の日

テキサス州とカリフォルニア州の同盟勢力と政府軍の間での米内戦が勃発。激しい武力衝突が起きる中、4人のジャーナリストたちが大統領にインタビューするため戦場となったホワイトハウスへと向かいます。

あー、やっぱり!というのが観終わった直後の感想。

アレックス・ガーランドの作品は幕切れが唐突、突然ブツッと映画が終わるという印象があります。その後について想像することをシャットアウトされる。だから余計頭から離れなくなる。本作もまさにそんな映画でした。

頭から離れなくなるような題材の映画を毎回観せてくれる映画作家なのです。『ザ・ビーチ』(原作)はディストピアもの、『28日後…』(脚本)はゾンビものとして強く印象に残ったし、クローン人間が主人公のカズオイシグロ小説の映画化『わたしを離さないで』(脚本)を経ての監督デビュー作『エクス・マキナ』は、人間とAIの主従関係を美しくスリリングに描いた大好きな映画。『アナイアレイション_-全滅領域-』も後を引きました。

本作は、現実と創造の境界を見失う恐ろしさを絶えず感じながら観ましたが、後から一番思い出すのは、ジャーナリストとしての価値観を見失ったリーと、何かが乗り移ったように高揚してシャッターを押し続けるジェシーの表情。ベテランと新米、彼女たちが象徴するものは何かをずっと考えさせられました。感情が崩壊するふたりを演じたキルスティン・ダンストとケイリー・スピーニーが素晴らしかったです!

(2024年/アメリカ・イギリス/監督:アレックス・ガーランド)

侍タイムスリッパ―

幕末の侍が現代の時代劇の撮影所にタイムスリップし、斬られ役俳優として生きていく『侍タイムスリッパ―』。

タイムスリップした侍は、すぐに状況を受け入れます。その都合良さすら愛おしい!自分が居るはずのない時代に迷い込んでしまったけれど、自分の存在を残せる仕事に出会い第二の人生に奮闘する主人公のカッコよさ!そしてそれが実際の斬られ役俳優や殺陣師のカッコよさに通じ、“侍魂”を後世に伝える時代劇の作り手たちへのリスペクトが詰まった映画になっていることに感動!

ものごとには終わりが来る。でも、それが今日じゃないのであれば、今は決着をつけなくてもいい、今を大事に生きればいい…タイムスリップものの真髄は、今という時間の価値に気づくことだなぁとしみじみと思いました。

時代劇を撮り始めたけれど資金難で諦めかけた監督に、脚本が面白いから何とかしてやりたいと救いの手を差し伸べたのが東映京都撮影所。10名たらずの自主映画のロケ隊が時代劇の本家、東映京都で撮影を敢行するという前代未聞の完成を遂げたという本作。東映京都で最初のカチンコが鳴った瞬間の監督たちの気持ちを考えると、胸がアツくなります。

(2023年/日本/監督:安田淳一)

花嫁はどこへ?

2001年、とあるインドの村。花婿の勘違いで取り違えられた2人の花嫁。置いて行かれた花嫁は途方に暮れ、連れてこられた花嫁はなぜか帰ろうとしない。花婿は迷子の花嫁への愛しさを募らせ必死に捜し続ける。はたして運命のいたずらの結末は?

監督のキラン・ラオは『モンスーン・ウェディング』がキャリアのスタート、『きっと、うまくいく』の主演で一躍有名になったアーミル・カーンがプロデュース、撮影監督は『ザ・ホワイトタイガー』のヴィーカス・ノゥラカー・・・大好きなインド映画名がたくさん出てくる前情報の時点で、絶対観ると決めていた1本。

そして、高まった期待以上!とても素敵な映画でした。伝統や世間体に縛られながらも、自分で自分の人生を切り開こうとするインド映画のヒロインたちって、なんて魅力的なんだろう!!

この映画は、タイプの違うふたりの女性が同時に見知らぬ場所に放り出されるという設定が、感動の展開につながるところが大きな特徴。

そして、愉快なキャラクターが多数登場するところも!特に、屋台のマンジュおばさんと、しゃくれ顎のマノハル警部補に関しては、観た人なら誰もが語らずにはいられなくなるようなユニークで、最後に泣かせる愛すべき脇役です

(2023年/インド/監督:キラン・ラオ)

リトル・ダンサー デジタルリマスター版

イギリス北部の炭坑町に生まれたビリー・エリオット。ストで荒れ果て、誰もが気力を消耗し、希望を持てない時代の中で、ビリーはバレエに夢中になります。

でも、もしビリーに「将来の夢は?」と聞いても、「プロのバレエダンサーです」と答えたりはしなかったはず。彼は、ただひたすら踊りたかった。踊っている時は躍ることだけに夢中になれるから。これが自分だって思えるから。

ビリーの踊りは、どんな型にもはまらない、内なる感情の自己表現です。難しいターンができるようになった嬉しさで、町中を軽やかに飛び跳ねるシーン。父への反発から足が勝手に動き出し、これが僕なんだと踊り出すシーン。オーディションで主役を得た当時13歳のジェイミー・ベルの、力強いダンスシーンには息を飲むほど圧倒されます。

ビリーの才能を見出すバレエの先生。生活が苦しい中でもビリーのためならと動き出す町の住人たち。そして、ビリーの将来のために必死になる家族。ビリーはみんなの希望になって、踊り続けるのです。映画のラストは、トップ・ダンサーのアダム・クーパーが25歳のビリー役で登場し、「バレエ表現の可能性に挑戦し続ける想いを一瞬に込めてほしい」という監督からのリクエストに見事に応えました。バレエって何て凄いんだろう。表現するってなんて自由なんだろう。

何度も観返していますが、23年ぶりに映画館で観れたことが本当に嬉しい、不朽の映画です。

(2000年/イギリス/監督:スティーヴン・ダルドリー)

ナミビアの砂漠

カナ:21歳。職業:脱毛サロンスタッフ。趣味:特にナシ。将来の夢:特にナシ。彼氏:とりあえずいる。いつも一緒:タバコとケータイ。

カナの生態を観続ける137分間の映画です。

気だるそうに見えて、実は周囲にエネルギーを発している。彼氏をいいように利用するように見えて彼氏に依存している。…なんていう分析が無意味と感じるくらい、ただただカナを観続けることが面白くて面白くて!

生命力全開で街を疾走する無敵さ。ちょっとのつまずきで気持ちが全く立ち行かなくなる弱々しさ。感情の振れ幅が大きい彼女を理解するのは難しい。でも「どうせ百年後は骸骨なんだからどうでもいい」なんていう生き方はしたくないと悩む姿には共感したくなる。

カナは、ナミビア砂漠の水飲み場に設置されているライブカメラの映像を時々見ています。水を飲む動物たちが何を思っているかなんてわからない。なぜカナが時々見たくなるのかもわからない。

そんな“わからない“ことが、不安ではなく、わからなくていいんだと安心になる。なかなか持つことのない感情を持ち帰れた映画です。

河合優実がまだ俳優になる前の高校3年生、山中瑶子監督が21歳の時に、監督第一作の上映館で会い、「俳優になるのでいつかキャスティングの候補に入れてください」という手紙を監督が手渡しされたことがあったそうです。その願いが果たされた映画が本作。そんなことを知ったら観ずにはいられない1本でした!

(2024年/日本/監督:山中瑶子)

 

ぼくのお日さま

北国の田舎街に暮らす少し吃音のある少年。男の子は皆アイスホッケーを習う。でも、少年はアイスホッケーが苦手。ある日、フィギュアスケートの練習をする少女に一目ぼれをし、そして、選手の夢を諦めて東京からやってきたスケートのコーチ、荒川と出会う・・・。

何かに夢中になり、できることがひとつひとつ増えていく喜びを経験し、思うようにならない現実も知る。子供たちの一瞬一瞬を丁寧に捉えて、甘いけれど痛みも残る映画です。言いたいこと、言えないこと、言ってしまったこと。相手のことを大切に思っているのであれば、大丈夫、相手にはちゃんと気持ちが伝わるよ、時間がちょっとかかるかもしれないけれど、と、観ながら何度も言いたくなりました。

そして、大人たちも含めて全員、誰もが必ず誰かの“お日さま”だったことがとても素敵でした。恋は人生の原動力です。

子供たちが皆良かった。特に、越山敬達くん演じる少年の表情!ラストシーンは今年のベスト級です。

(2023年/日本/監督:奥山大史)

ラストマイル

世界規模のショッピングサイトから配達された段ボール箱が爆発する事件発生。真相解明の怒涛の4日間が描かれる、“物流”を題材にしたクライム・サスペンスです。

生活の便利さの裏側を見せられ、事件の核心に迫れば迫るほど、日本の現代社会の“ゆがみ”を突き付けられます。企業の組織体制、社会的格差、そして「2024年問題」。この映画そのものが“自分ごと”になっていく瞬間は、社会派ものとして、外国映画では味わえない緊張感がありました。

ラストマイルとは、お客様に荷物を届ける物流の最後の区間を表すもの。本作の主人公は満島ひかり演じるショッピングサイトの関東センター長ですが、この映画タイトルを担うドライバー親子が裏の主役。ふたりの人情ものとしてグッと心を掴まれました。

「アンナチュラル」「MIU404」とヒットドラマを生み出した塚原あゆ子監督×野木亜紀子脚本×新井順子プロデューサーが、映画で初タッグ。ドラマ2本のメインキャストも事件解決に尽力するかたちで登場します。ヘビーな題材を扱う3人のチャレンジ精神と信念が凄いです。今後も題材へのこだわりを貫いてほしい!痛みと救いを見せてほしいです!

(2024年/日本/監督:塚原あゆ子)

至福のレストラン / 三ツ星トロワグロ

朝市での活気ある会話とさまざまな野菜調達、メニュー会議ではシェフが本日初提供するアーモンドソースのレシピ説明・・・冒頭数分で五感のすべてがワクワクと騒ぎだしました。フランスの三ツ星フレンチレストラン「トロワグロ」の、料理と、料理人たちのドキュメンタリーです。

素材、ソース、下準備、盛りつけ。映し出される料理の過程のすべて。でも、テーブルに置かれるまでで終わり。客が食べているシーンは殆どなく会話を聞く程度。料理が主役という見せ方のこだわりを感じます。

そして、料理人たちのプロフェッショナルな仕事ぶりのカッコ良さ!!インタビュー記事で監督は「厨房で彼らはダンスを踊るかのように動いていた」と表現しています。もう、惚れ惚れ!!

中盤のクライマックスは、ある驚きの食材が驚きのトラブルで使えなくなりそうになり、本日のメインメニュー完成危うしという場面。料理はサスペンスです。また、料理は自然と関わっていくもの。料理は伝統を受け継ぐもの。だから、料理を追及すると現代のさまざまな問題も見えてきます。

上映時間4時間!無駄なものが一切ない豊かな映画を完食した満足感に浸りました。しそが“素晴らしいジャパニーズ・ハーブ”と称され、大活躍するのが嬉しかったです。

(2023年/アメリカ/製作・監督・編集:フレデリック・ワイズマン)