『ガタカ』

ラインナップがいつも楽しみな 立川シネマシティの【第2金曜極音ナイト】

 本作の日本劇場初公開は1998年。立川シネマシティの【第2金曜極音ナイト】で、約20年ぶりにスクリーンで鑑賞しました。

 立川シネマシティは私が一番足を運ぶ映画館。行きたくなる理由のひとつがこのような企画上映の存在です。【極音ナイト】は、音楽が重要な作品を極上の音響調整をかけて原則ワンナイトオンリーで上映するイベントで、これまでも『パリ、テキサス』『あの頃、ペニー・レインと』『シュガーマン 奇跡に愛された男』などを鑑賞。この企画の編成担当者は、私の「スクリーンでもう一度観たい映画リスト」をご存知なのではと思ってしまいます。

『ガタカ』は、幅広い世代で満席に近い状態でした。カルト的人気を持ち今でも語られる映画なので、何かきっかけがあって初めて観にきた人もいたことでしょう。

 レトロフューチャーな未来描写。マイケル・ナイマンの旋律。フランク・ロイド・ライトの建築物。1本の映画からさまざまなジャンルに関心を持ったことを、懐かしく思い出しました。ジュード・ロウが初めて登場するシーンの息を飲む美しさや、イーサン・ホークとユマ・サーマンの視線の交わし方など、強烈に覚えていることをひとつひとつ確かめる楽しさも満喫しました。

 なかでも、私にはひと際楽しみにしていたワン・シーンがありました。それは、主人公ビンセントと弟のアントンが海に飛び込んで度胸試しの遠泳を競い、遺伝子的に優れている弟にビンセントが奇跡的に勝つシーン。荒々しい海に漂うふたりを空から月の光が照らす中、勝った理由を問われて答えるビンセントの台詞に、今回も胸が熱くなりました。遺伝子操作で生まれながらに人間の優劣が決められる未来を舞台にスリリングなサスペンスを描きながら、この映画が最も描きたかった「誰かに自分の人生を方向づけられることを頑なに拒否した主人公の強さ」が、このシーンに込められていると思います。映像美や造形、CG効果など視覚的な部分に引き込まれるSF映画において、心がぐっと掴まれたエモーショナルなシーンとして必ず思い出します。

 本作で監督・脚本デビューを飾ったアンドリュー・ニコルは、次にジム・キャリー主演『トゥルーマン・ショー』の脚本を手がけ、水恐怖症の主人公を嵐の海に放り込み、必死にボートを漕ぎ続ける姿で運命を切り開く人間の強さを表現しました。今も新作を期待している監督兼脚本家です。

 

SF映画におけるエモーショナルなシーン

『エクス・マキナ』

 ケイレブは、世界シェア率No.1を誇る検索エンジンの運営会社ブルーブックの社員。社内抽選に当たり、CEOのネイサンの別荘に招待され、そこで、秘密裏に行われていたAI エヴァの実験に加担させられます。

 AIが人間の意図に反し、進化した時に起こる反乱や不幸を描く傑作SF映画はいくつもありますが、『エクス・マキナ』は、AIの脳の原理を検索エンジンと設定したことで展開が現実味を帯び、人口知能に対する潜在意識を試される、SF映画の新境地を開いた1本だと思います。

 エヴァの存在に心が乱されていくケイレブ。そして、ネイサンが本当は何をテストしていたのかがわかり、人間の恐ろしいエゴと、その結果の未来を突き付けられるラストへと向かっていきます。

 エヴァの思考形態は、パターン化し、同時に混乱していきます。困惑する表情は、ケイレブへの挑発にも見えるし、彼女のなかで変化が起こっている証拠にも見えてきます。時にエロティックに、時に少女のようにエヴァを演じたアリシア・ヴィカンダーが本当に素晴らしい。ラスト近くに、一瞬だけ、それまでエヴァが一度も見せたことのない表情をするシーンがあります。その一瞬の表情を見逃さないで下さい。

『ガタカ』

1997年/アメリカ/監督:アンドリュー・ニコル(『ANON アノン』、『トゥルーマン・ショー』脚本)/出演:イーサン・ホーク(『6才のボクが、大人になるまで。』『いまを生きる』) ユマ・サーマン(『キル・ビル』『パルプ・フィクション』) ジュード・ロウ(『クローサー』『コールド マウンテン』)

『エクス・マキナ』

2016年/イギリス/監督:アレックス・ガーランド(『アナイアレイション -全滅領域-)/出演:ドーナル・グリーソン(『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』『ブルックリン』) アリシア・ヴィカンダー(『光をくれた人』『リリーのすべて』) オスカー・アイザック(『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』) ソノヤ・ミズノ(『クレイジー・リッチ!』『ラ・ラ・ランド』)