1992年ミニシアター公開作品都内興収ベストテン
【1】『ナイト・オン・ザ・プラネット』/シャンテ シネ
【2】『ポンヌフの恋人』/シネマライズ
【3】『アトランティス』/有楽町スバル座
【4】『デリカテッセン』/シネスイッチ銀座
【5】『髪結いの亭主』/Bunkamuraル・シネマ
【6】『仕立て屋の恋』/シネマスクエアとうきゅう
【7】『トト・ザ・ヒーロー』/シャンテ シネ
【8】『ジャック・ドゥミの少年期』/岩波ホール
【9】『ハワーズ・エンド』/シネスイッチ銀座
1980年代のフランス映画界は新しい才能が台頭した時代で、ジャン=ジャック・ベネックス監督の『ベティ・ブルー』(87年日本公開)やリュック・ベッソン監督の『グラン・ブルー』(88)などが日本でもセンセーショナルなヒット現象を起こしましたが、レオス・カラックス監督は、自分の分身的存在を主人公にした「アレックス三部作」の最終章『ポンヌフの恋人』のヒットにより、ミニシアター系監督として神格化されるようになりました。『ポンヌフの恋人』でジュリエット・ビノシュが魂を削るような演技を見せる花火のシーンや、『汚れた血』でドニ・ラヴァンがデヴィッド・ボウイの「モダン・ラヴ」に合わせて疾走するシーンに、当時、それまでにない衝撃を受けた私自身も、レオス・カラックスは特別な存在の監督でした。ここ数年、1989年生まれのカナダ出身グザヴィエ・ドラン監督が、日本でも若い世代を中心に人気です。メディアではレオス・カラックスの再来と表現されることがあり、確かに独自の監督スタイルを追い続けたくなる魅力が重なりますので、グザヴィエ・ドラン人気が、若い世代にとって初めてレオス・カラックス監督作品を知るきっかけになってほしいです。
『髪結いの亭主』は、日本で最初に公開されたパトリス・ルコント監督作品。2か月遅れで前作『仕立て屋の恋』も公開され、男女の愛をゆるやかな時間の中で悲哀たっぷりに描く大人の語り口が多くのミニシアター系映画ファンを魅了しました。『デリカテッセン』は、ジャン=ピエール・ジュネ監督の長編デビュー作。ジュネが10年後に世に放った監督作『アメリ』は、日本でも大旋風を巻き起こすことになります。
このようにこの年は、多くのフランス映画がヒットした年でした。翌1993年、パシフィコ横浜メインホールを会場に第1回フランス映画祭横浜が開催されます。
そんな1992年にミニシアターで最もヒットした『ナイト・オン・ザ・プラネット』は、シム・ジャームッシュ監督によるオムニバス映画。ポスターのビジュアルは、ロサンゼルス編に登場する咥え煙草で蓮っ葉な女性タクシー運転手のアップ写真で、ウィノナ・ライダーの、前年に公開された『シザーハンズ』のヒロインとは全く違う雰囲気がとても新鮮でした。映画のヒットの要因のひとつは、このビジュアルのインパクトだったのではと思います。ティム・バートン監督作品『ビートルジュース』で注目され、ジェネレーションX世代を描いた『リアリティ・バイツ』、若くしてプロデュース業に着手した『17歳のカルテ』などを代表作に持つ彼女は、90年代ミニシアター系映画のアイコン的女優でした。