1994年ミニシアター公開作品都内興収ベストテン
【1】『さらば、わが愛/覇王別姫』/Bunkamuraル・シネマ
【2】『日の名残り』/シャンテ シネ
【3】『ピアノ・レッスン』/シャンテ シネ
【4】『青いパパイヤの香り』/シネマスクエアとうきゅう
【5】『トリコロール/青の愛』/Bunkamuraル・シネマ
【6】『戯夢人生』/シャンテ シネ
【7】『エム・バタフライ』/シネマスクエアとうきゅう
【8】『キカ』/シネスイッチ銀座
【9】『我が人生最悪の時』/シネスイッチ銀座
【10】『バック・ビート』/丸の内シャンゼリゼ
この年を代表する映画は、中国激動の時代を生きた京劇俳優たちの一大抒情詩『さらば、わが愛/覇王別姫』でした。異国文化への憧憬もありますが、主演のふたり、レスリー・チャンとコン・リーの人気もヒットの要因だったと思います。監督はチェン・カイコー。本作で中国語映画に初めてカンヌ国際映画祭パルムドールをもたらし、彼を含む中国第五世代と呼ばれる監督たちの台頭が国際的に注目されました。日本では、チャン・イーモウ監督の方が早く紹介され、『紅いコーリャン』(89年日本公開)『菊豆』『紅夢』『秋菊の物語』と立て続けに公開、その全作品でヒロインを演じていたのがコン・リーで、大地を思わす逞しさと包容力を体現する女優の登場は衝撃でした。チャン・イーモウはその後『初恋のきた道』でチャン・ツィイーを輩出し、『HERO』『グリーン・デスティニー』といった多国籍合作映画を成功させます。一方チェン・カイコーは、次作『花の影』(97年日本公開)でレスリー・チャンとコン・リーを再び起用、同作も日本でヒットしました。
レスリー・チャンを語るのに、日本の90年代香港映画ブームのことは外せません。複数の男女の無軌道な愛が交錯する『欲望の翼』と『恋する惑星』の公開がきっかけとなり、女性を中心に香港映画ブームが到来しました。なかでも独特の湿度と色気が漂うウォン・カーウァイ監督作品がブームの中心で、撮影監督クリストファー・ドイルとの黄金コンビも注目され、その中で輝いたのがレスリー・チャン。突然の死も含めて伝説となった俳優です。
サイゴンの富豪一家に女中として雇われた女の生涯が描かれ、色彩、リズム、登場する数々のベトナム料理が新鮮だった『青いパパイヤの香り』も印象深い映画です。本作を上映したシネマスクエアとうきゅうは、1981年にオープンし、ミニシアターブームに先鞭をつけた映画館でした。「大劇場でのロードショーでは採算が合わないが、お蔵入りにするのはもったいない良質の映画を救済する」という劇場誕生の方針通り、ひと味違う映画との出会いの場として記憶に残っています。私にとっては、『薔薇の名前』(87年日本公開)『ゴシック』(88)『聖なる酔っぱらいの伝説』(90)『マッチ工場の少女』(91)『希望の街』(92)など、その後追いかけるように作品を観ることになる映画監督を初めて知る映画館でもありました。