連載⑩ミニシアター系映画史1999年

1999年単館公開作品都内興収ベストテン

【1】『バッファロー’66』/シネクイント

【2】『宗家の三姉妹』/岩波ホール

【3】『ベルベット・ゴールドマイン』/シネマライズ

【4】『ラン・ローラ・ラン』/シネマライズ

【5】『セントラル・ステーション』/恵比寿ガーデンシネマ

【6】『鳩の翼』/Bunkamuraル・シネマ

【7】『ポーラX』/シネマライズ

【8】『タンゴ』/Bunkamuraル・シネマ

【9】『ビッグ・リボウスキ』/シネマライズ

【10】『運動靴と赤い金魚』/シネスイッチ銀座

 

 多目的ホールSPACE PART3を映画専門館にリニューアルし、7月にオープンしたシネ・クイントの第1弾『バッファロー’66』。ニューヨーク出身のヴィンセント・ギャロが、監督・主演・美術・音楽を手掛けるというトンがった俺様映画でありながらも、ダメ男の哀しさや、クリスティーナ・リッチ演じるヒロインの優しさで妙に人肌の温もりを感じる不思議な映画でした。パルコのイメージキャラクターへの起用、アパレルとのコラボ、車のCMへの出演、そして来日キャンペーンと、日本ではまだ無名だったギャロを徹底的に売り出すというこの映画ならではの宣伝が見事にハマり、時代の映画になっていきました。

 70年代グラムロックを題材に、人気ミュージシャン失踪事件の真相を追うことになった新聞記者が、彼のファンだった過去の自分と対峙していく『ベルベット・ゴールドマイン』も、豪華なサウンド・トラックとグラマラスなビジュアルを最大限に使ってグラムロック・ブームを掻き立てたことが映画のヒットに繋がりました。デヴィッド・ボウイとイギー・ポップのニュー・アルバムがこのタイミングにリリースされ、映画業界と音楽業界がタッグを組んでブームを盛り上げたことも印象的でした。

 ドイツ映画『ラン・ローラ・ラン』は、恋人の窮地を救うため20分で金を工面することになったローラが、ベルリンの街をまさにタイトル通り走り続ける映画で、上手くいかなくなると初めからやり直すという具合にして結末が変わる3通りの展開を順に見せる構成と、ビデオ映像、アニメ、画面分割、コマ送りなどさまざまな手法を駆使する表現がとにかく新鮮でした。

 この年には、天才数学者の前にある日コンピューターが巨大な数字の塊を吐き出し始めるという不条理な設定を、全編モノクロームの世界で見せるダーレン・アロノフスキー監督の出世作『π』や、ある事故を境に現実と夢が曖昧になっていくプレイボーイの、幻覚の描写に目を奪われたアレハンドロ・アメナーバル監督の出世作『オープン・ユア・アイズ』も公開。前年の『CUBE』に続き、エッジの効いた面白い映画が次々に現れた時期でした。これらの作品に人を惹きつけるパワーがあった理由は、映像表現が独創的で斬新だっただけではなく、人間のもがきや葛藤といったものをそこに見出し、観る者の感情がざわざわと動いたからだったと思います。『オープン・ユア・アイズ』には、償えない罪に人生を支配され続ける苦痛が、『π』には、何かに異様に取り憑かれた人間の行き着く果てがありました。そして、『ラン・ローラ・ラン』は、一瞬の判断ですべてが変わってしまうという、引き返せない愛や人生を思い知らされる映画でした。