連載⑫ミニシアター系映画史2001年

2001年単館公開作品都内興収ベストテン

【1】『山の郵便配達』/岩波ホール

【2】『初恋のきた道』/Bunkamuraル・シネマ

【3】『蝶の舌』/シネスイッチ銀座

【4】『17歳のカルテ』/恵比寿ガーデンシネマ

【5】『PARTY7』/シネセゾン渋谷

【6】『彼女を見ればわかること』/Bunkamuraル・シネマ

【7】『キャラバン』/シネマライズ

【8】『ことの終わり』/シネスイッチ銀座

【9】『夏至』/Bunkamuraル・シネマ

【10】『ギター弾きの恋』/恵比寿ガーデンシネマ

 

 この年は、2本の中国映画が多くの人々の心を魅了しました。中国山間部で長年郵便配達を務めていた父が引退することになり、仕事を引き継ぐ息子にとっては初めての、父にとっては最後となる配達を2人で共にする『山の郵便配達』。父の訃報を聞き母のもとへ帰ってきた息子が、若かりし日の母と父との出会いを追想する『初恋のきた道』。共に、郷愁を誘う風景と人々のミニマムな日々の営みをかみしめるような作風で、父や母の人生に触れた息子の成長も共通して描かれた2本でした。

 年を跨いでのロングランとなった『17歳のカルテ』は、痛みを抱えながらもひたすらに生きようともがく魂の漂流が胸に迫りましたが、この年に公開された2本の日本映画『リリイ・シュシュのすべて』と『EUREKA ユリイカ』も、主人公たちの痛みと生きづらさに胸が締め付けられるような映画でした。絶望の果てに子供のためだけに生きようとする母を演じたビヨークの、イノセントな魂の歌声が強烈に響く『ダンサー・イン・ザ・ダーク』もこの年に公開されました。

 日伊両政府によるイタリア紹介事業「日本におけるイタリア年」をきっかけに、この年からイタリア映画祭がスタート。日本未公開の最新作が数々上映されました。直後に第54回カンヌ国際映画祭パルムドールをナンニ・モレッティ監督作『息子の部屋』が受賞というニュースも届き(日本公開は2002年1月)、『ライフ・イズ・ビューティフル』(99年日本公開)、『海の上のピアニスト』(2000年日本公開)のヒットの流れや『マレーナ』の公開もあってイタリア映画がフィーチャされた年でした。

 全国のミニシアターで大ヒットした『リトル・ダンサー』は、都内複数館での公開となったので上記ランキング対象外作品ですが、間違いなく取り上げるべき1本です。劇場公開日の1月27日、東京は記録的な大雪。朝から交通網が乱れるなか、メイン館のシネスイッチ銀座にできた長蛇の列と満席の光景は今でも忘れられません。公開を楽しみに待ち、初日に劇場に足を運ぶ。人々の心を躍らせる映画の力に感動しました。サッチャー政権下で揺れるイギリス炭鉱町を舞台に、バレエダンサーになることを夢見るビリーの情熱と家族愛がUKミュージックと共に駆け抜けます。内なる自分を解き放つように踊るビリーのバレエは心の叫びそのもの。どれほど表現したい自分を持っているかということの大切さを教えられました。映画を観て感動したエルトン・ジョンがスティーヴン・ダルドリー監督にミュージカル化を提案。エルトンの全曲書き下ろしとダルドリー監督自らの演出によるミュージカル「Billy Elliot the Musical」が、ウエストエンドで2005年に開演、大成功を収めました。多くの国が各国キャストによるローカル版を製作、日本版も2017年に初演されました。

 『リトル・ダンサー』のヒットは、都内1館だけの公開作を対象にした単館公開作品興収ランキングの意義やミニシアター映画の定義づけを考え改めるきっかけになりました。そのことについては、この連載の名称に「ミニシアター“系”映画」という表現を使った理由も含め改めて書きたいと思います。