2021年映画ベストテン

1.『隔たる世界の二人』

2.『アメリカン・ユートピア』

3.『17歳の瞳に映る世界』

4.『ミナリ』

5.『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

6.『イン・ザ・ハイツ』

7.『コレクティブ 国家の嘘』

8.『ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている』

9.『東京自転車節』

10.『街の上で』

 

短編実写映画をベストワンに選んだのは初めてです。でも、『隔たる世界の二人』は、観終わった直後震えるほど感動した作品でした。ブラック・ライブズ・マターを反映した今観るべきテーマを、タイムループという昔から存在する手法であまりにも見事に表現。映画の持つ表現力の凄さを改めて思い知らされました。

コロナ禍にあった映画館がほぼ通常に戻ったタイミングに満席のスクリーンで鑑賞した『アメリカン・ユートピア』。11人の最高にイカした大人たちによる最高のパフォーマンスと、神業としか言いようがないスパイク・リーのカメラワーク!多くの他人同士が今この瞬間同じ興奮を味わっていると実感した2時間は、まるでユートピアにいるような気分でした。

『アメリカン・ユートピア』ではパワフルで包容力に満ちたニューヨークが、『17歳の瞳に映る世界』の2人の少女にとっては、ただただ疎外感が募る暗い迷路のような場所。彷徨う少女の虚ろな表情と、病室の窓から見える空をみつめる瞳の色が、強烈に記憶に残りました。

父親が息子にかける言葉が心に沁みた『ミナリ』。自叙伝的映画なので、監督が幼い時に聞いた父の言葉をずっと覚えていると思うと感動が増します。ひとりの重要な登場人物を、印象的な顔アップのシーンで映画から去らせ、その後の行く末を一切見せなかったという潔さが余韻の深さに繋がりました。

『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、悪役が全く魅力なかったのが本当に残念。でも、その残念な気持ちを補って余りある、誰かに話したくて仕方ない程好きなシーンがあり、10本に入れないわけにはいきませんでした。007史上最長のボンド俳優となったダニエル・クレイグのボンド卒業を見届けたことに胸が熱くなりました。

ブロードウェイ・ミュージカル界に革命を起こしているリン=マニュエル・ミランダの処女作を『クレイジー・リッチ』のジョン・M・チュウ監督が映画化した『イン・ザ・ハイツ』は、舞台となっているワシントン・ハイツが終始主役として存在していて、ふと、映画『スモーク』を思い出しました。街とそこで生まれた人生が共に描写される映画が私は好きです。

医療と政治の腐敗が暴かれた事件を記者の視点から追うルーマニアの『コレクティブ 国家の嘘』では、「起こっていることが異常すぎて、自分たちが変に思えてくる」という記者のつぶやきが耳に残り、時代を席巻する若きシンガーの素顔と成功の軌跡、家族との関係を綴る『ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている』では、自分の心の奥を絞り出すように歌詞の一行一行を作り上げる過程の狂気と純粋さに感動。2021年も数々の面白いドキュメンタリーに出会えました。

『東京自転車節』は、コロナ禍に故郷から東京に出てきてウーバーイーツの配達員となった自分を作品にしたこれもドキュメンタリー。押しつけがましさの全くない、自撮りによる境遇とつぶやきの記録は、最後、一直線に自転車を走らせる姿を映して終わる、彼のその後ろ姿から確かなメッセージを受け取りました。『街の上で』は、下北沢を舞台に古着屋で働く主人公と彼を取り巻く4人の女性たちの物語。特に好きだったラストシーンについて、今泉監督によると、登場人物をいつまでも見ていたいと思わせられる終わり方で、あの笑顔が取れたからこれでいこうと思ったとのこと。監督の思いをその通りに受け取ることができて嬉しかったです。