2022年映画ベストテン

1.『ベルファスト』

2.『わたしは最悪。』

3.『きっと地上には満天の星』

4.『ダウントン・アビー/新しき時代へ』

5.『恋は光』

6.『FLEE フリー』

7.『あのこと』

8.『RRR』

9.『LAMB/ラム』

10.『桐島、部活やめるってよ』

 

2022年も、映画のなかにはたくさんの人生が描かれ、人生で大切なことを映画からたくさん教えてもらいました。1969年、宗教の違いで分断する北アイルランドの都市ベルファスト、9歳の少年が家族とともに故郷を離れる日を迎えるまでのひと夏の日常が描かれる『ベルファスト』。時代の流れが一家の生活にもじわじわと押し寄せる一方で、変わらない家族の愛と寛容、故郷の存在。モノクロ作品故のノスタルジックな味わいの中で、少年の算数の宿題を手伝う祖父が言う「答えが1つなら紛争など起きんよ」という言葉が鋭くキリリと突き刺さりました。『ダウントン・アビー/新しき時代へ』での、マギー・スミス演じる先代グランサム伯爵未亡人バイオレットの「“予想外”を乗り越えるのが人生よ」という言葉も忘れられません。TVシリーズの映画化第2弾で、時代は1928年、ダウントンに暮らす人々に訪れた新しい時代の始まりを描きます。1912年、タイタニック号沈没の悲報が飛び込んだ朝から始まったTVシリーズ第1話。ダウントンの16年間を観続けて、人はいつでも成長できることを何度も教えられました。

『わたしは最悪。』は、人生の方向性が定まらず選択を繰り返し、そしてふたつの恋に揺れる30歳の主人公ユリヤの日常。「完璧なものを追いかけすぎなくていい。人生の階段をいかに経て、自分を受け入れるかが重要」というテーマを持った映画です。序章と終章+12章のキャプチャー立てされた構成も、章ごとに挿入される音楽も、35ミリフィルムで撮影された人物に寄り添うカメラワークも、ノルウェーの首都オスロの街並みも全て好きで、そのなかで人生を生きるユリヤの姿が眩しいほど魅力的。ヨアキム・トリアー監督自ら見出した主演女優にあてがきした脚本ということに納得。前作『テルマ』に衝撃を受け、次作を楽しみにしていた監督でした。

『きっと地上には満天の星』は、NYの地下鉄廃トンネルのコミュニティで暮らす母娘の物語。不法住民者として街から排除され、地上に逃げ惑うふたり。そしてラスト20分、娘を想う母の行動に動揺します。公開時期、ウクライナ侵攻により日常を奪われ地下シェルターで暮らす子どもたちを映すニュースを見ることが多く、この映画の結末に、そんな世の中の悲劇の連鎖を断ち切る希望の光を見ずにはいられませんでした。『FLEE フリー』は、アフガニスタンで生まれ育ったアミン(仮名)が、20年以上抱えていた秘密として親友に語る、家族を奪われ故郷を命懸けで脱出した彼の壮絶な半生。登場人物たちの安全を守るためアニメーションで制作され、2022年アカデミー賞で国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門にノミネートされました。真実を明かすことの勇気でできている映画です。そして、中絶が違法だった60年代のフランスで、予期せぬ妊娠をした大学生アンヌの葛藤と決断を描く『あのこと』は、アメリカでの人工妊娠中絶論争が世界的に波紋を広げてる今、アンヌの、自分の未来を救うために闘う姿には、社会への強いメッセージを感じました。

『RRR』には大興奮しました。迫力が凄すぎて笑えてくるほど面白いアクションシーンの連続。自分が貫く正義のために戦う男たちと、彼らの友情に痺れます。場内に高揚感が湧き続け、今この空間にいる人たちと映画への興奮を共有しているんだ!ということが嬉しくなり、映画館で観る楽しさを満喫しました。アイスランド映画『RAMB/ラム』もまた、映画館で観るべき作品。ダーク・ファンタジーな世界にどっぷり浸かりました。羊ではない何かに愛情を注ぐノオミ・ラパスの演技が素晴らしく、彼女が人間の抱える喪失・寛容・絶望を体現したことで、この奇想天外な映画に不思議な人間味が漂いました。

2022年ベスト恋愛映画は『恋は光』です。恋とは誰しもが語れるが誰しもが正しく語れないものである とするこの文科系哲学恋愛映画に惚れました。恋とは何かを懸命に考える4人の大学生。北代が西条に本心を言い放つセリフがもう!北代を演じる西野七瀬が最高で、小林啓一監督のヒロイン描写と、演じる女優の魅力の引き出し方が私はとても好きです。

そして、10本目は公開10周年記念上映で観た『桐島、部活やめるってよ』。本作は視点を変えて「金曜の放課後」が何度も繰り返されるストーリーが特徴で、その日付、11月25日が2022年は映画の設定と同じ金曜であることから今回の上映企画が生まれたとのことで、関係者の本作への愛を感じます。懐かしや気恥ずかしさやズキンとする感覚が波のように押し寄せ、ゾンビ襲来シーンに泣けて、やはり大好きな映画でした。