オマールの壁

壁によって分断された街、パレスチナ自治区で生きる若者たちの無情な現実。

オマールは、壁をよじ登って向こう側に住む恋人のもとに通っていたが、こんな毎日を変えようと仲間と共に立ち上がる。しかし、イスラエル兵殺害容疑で1人だけ捕えられ、秘密警察から執拗な拷問を受け、囚人として一生を終えるか、仲間を裏切りスパイになるかという選択を迫られる・・・。

8年前に観た時の、ずしんと全身に響いた感覚が蘇りました。ラストシーンの衝撃、そのあとの無音のエンドロール。仲間を信頼できなくなってしまった不幸、愛し合っているのに結ばれなかった二人、彼らが手に入れることができなかった未来について、ずっと考えて続けました。

映画の冒頭、オマールは、愛する恋人に会いたい一心で高さ8メートルのコンクリート壁を力強くよじ登り向こう側に行きますが、終盤、すべてを失ったオマールは、壁をよじ登ることが出来なくなってしまいます。そのシーンの彼の姿の痛々しさが頭から離れません。

スタッフは全てパレスチナ人、撮影も全てパレスチナで行われ、100%パレスチナの資本によって製作されたパレスチナ映画。ハニ・アブ・アサド監督は、「映画は政府の道具ではない。映画は私にとっての抵抗の手段だ」と語っています。アップリンク吉祥寺でリバイバル上映中です。

(2013年/パレスチナ/製作・監督・脚本:ハニ・アブ・アサド)