2020年映画ベストテン

1.『ダウントン・アビー』

2.『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』

3.『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』

4.『1917 命をかけた伝令』

5.『パラサイト 半地下の家族』

6.『ペイン・アンド・グローリー』

7.『TENET/テネット』

8.『レ・ミゼラブル』

9.『はちどり』

10.『ミセス・ノイズィ』

 

『パラサイト 半地下の家族』日本公開にあたりポン・ジュノ監督がコメントした次の言葉が印象に残っています。「映画が世界を変えられる、と確信を持って言うことはできません。しかし、映画は世界をありのままに映し出すことができると思います。ですから、世の中を生きることに力尽き疲れてしまった人たちがこの映画を観て、癒され救いが得られることを願っています」。実際の事件を大胆に脚色した『ミセス・ノイズィ』は、まさにそんな映画でした。SNS炎上やメディアリンチなど社会の歪みを痛烈に描きながら、真実をさらした先に、人は必ず分かり合えるというこれ以上ない心強いメッセージを用意してくれていました。ひとりの少女の日常の出来事をひとつひとつ紡いでいく『はちどり』は、1994年の聖水大橋墜落事故を映画の中でのクライマックスとして描くことで、不穏な時代の中で必死に羽を広げようとする少女のもがきが切実に伝わってきました。崩れることなど想像もしていなかった、信じて疑わなかったものが突然失われるという事態が、少女にとってどのような経験として描かれたかがこの映画の肝です。私は少女が成長する姿に救われました。一方、救いの全くないラストシーンに打ちのめされたのが『レ・ミゼラブル』でした。舞台のボスケ団地で育ち暮らす監督にしか撮ることのできない現実。この内容にしてどの登場人物にも善悪をつけずに描ききる覚悟。全ては環境のせいと考えることがせめてもの心の拠り所となった映画でした。

『はちどり』のキム・ボラ監督と『レ・ミゼラブル』のラジ・リ監督は、共にこれが長編デビュー作。次作も注目したい監督が増えた嬉しさと共に、2020年は、思い入れの強い監督たちの新作を楽しんだ年でした。『ペイン・アンド・グローリー』では、母への愛が溢れる冒頭のシーンから映画への愛で締め括るラストカットまで、濃厚なペドロ・アルモドバル節に痺れ、『TENET/テネット』では、時間を自在に操る技巧以上に、自分の存在意義を問いながら生き続ける男の苦悩がクリストファー・ノーラン監督作品に胸を打たれる要素だと改めて気付かされました。そして、社会の二極化を強烈な設定で表現した『パラサイト 半地下の家族』。目を逸らしたくなるほど残酷な悲喜劇の最後に、ポン・ジュノ監督は、救いを見出せるラストシーンを用意してくれていました。『殺人の追憶』や『グエムル -漢江の怪物-』もそうでしたが、この監督の映画の余韻が私は好きです。

『1917 命をかけた伝令』は、若き兵士が四方を飛び交う弾丸をよけながら走り抜くクライマックス・シーンに泣きました。そして、『1917 命をかけた伝令』と『TENET/テネット』は、ジャンルは違いながら課せられた任務を全うする男の凛々しさに共に強く感情を揺さぶられました。

『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』と『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は、どちらも、学園ものにありがちなヒエラルキー&キャラクター設定を軽やかに弾き飛ばす大胆さと、登場する全ての個性を平等に肯定し愛おしむ繊細さが見事にブレンドされていて、大好きな2本でした。「ハーフ・オブ・イット』は、全編に漂う優しい空気が心地よく、時折登場する映画の小ネタにワクワク。『ブックスマート』は、過激ながら胸に染みるセリフが満載でした。

そして、私にとって2020年一番の映画は『ダウントン・アビー』です。1927年のイギリス。新しい価値観が生まれ時代が動いていくなかで、登場人物たちは全員が自分の幸せを追求し続けていて、そして誇り高く生き抜いていました。公開日を指折り数えながらTVシリーズをおさらいし、鑑賞後に食事する店のセレクトもイベントになり、友人たちと感想を交換しあう。場内に沸いた高揚感や映画館を出た時の気分すらも鮮明に思い出せます。今は言うまでもなく様々なメディアで映画を観ることができますし、今年は、そのことが非常に意味を持った年でもありました。でも、映画館の空気も含めて映画を心に刻む行為は、これからも楽しみに重ねていきたいです。