シング・ストリート 未来へのうた

HUMAX CINEMA × 東京工科大学メディア学部             共同プロジェクトによる特集上映【青春~私たちが知りたい、みんなの青春のかたち~】の最終日に観に行ってきました。

2016年公開作。80年代の大不況にあえぐダブリンを舞台に、15歳のバンド少年コナーの恋と友情と未来を描いたこの映画が、『ルーム』『エクス・マキナ』『この世界の片隅に』『シン・ゴジラ』などを抑え同年断トツのマイベストシネマでした。

コナーの兄がとてもいいんです。大学をドロップアウトし社会からも背を向けた兄ですが、コナーにとっては音楽と人生の師匠。「ロックは覚悟だ」「想像力を鍛えろ」「彼女のために“悲しみの喜び”の意味を考えるんだ」。兄の言葉の全てがコナーを成長させます。

バンドメンバーの中でも飛び抜けて才能があるエイモン。コナーが書いた歌詞にエイモンが曲をつけていくシーンに惹きつけられます。監督のジョン・カーニーはロックグループのベーシストとして活動していた経歴の持ち主で、『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』に続く本作は彼の“音楽映画3部作”の最終章。そして一番自伝的要素の強い本作の、コナーとエイモンが楽曲を創り出すシーンには、監督の強い思い入れを感じます。

「これは君の人生 どこへでも行ける」と歌う「Drive It Like You Stole It」が流れるシーンが、この映画の中で一番好きなシーンです。案の定泣けてきました。好きだった映画を久しぶりに観て、やっぱり大好きだと思うのはとても幸せな気持ちです。大好きな音楽映画。大好きな青春映画です。

HUMAX CINEMA × 東京工科大学メディア学部 共同プロジェクト  特集上映【青春~私たちが知りたい、みんなの青春のかたち~】  10月20日(金)~10月26日(木)開催

東京工科大学メディア学部の現役大学生が企画から宣伝、上映までをプロデュースする特集上映が池袋HUMAXシネマズで開催されます。テーマは「青春」。自分たちの世代は「青春」という言葉と共に思い浮かべられる学生時代を、新型コロナウイルスの蔓延によって経験できなかった、だからこの企画で映画を通して青春を追体験したい、世代を超えて青春を語り合う機会を作りたいという思いが込められているそうです。

学生たちの上映作品セレクトに心躍ります!『恋する惑星』は、観たことのない映像美と世界観で1995年の映画シーンを鮮やかに彩り私たちを夢中にさせた映画。今の大学生世代はこの映画との出会いでどんな感情が生まれるのでしょう。『シング・ストリート 未来へのうた』は、人生において自分が何かに目覚めた瞬間、何かを掴んだ瞬間が、音楽が生み出す高揚感と共に刻まれた傑作。『mid 90s ミッドナインティーズ』は、90年代ストリートカルチャーの空気を纏いながらも普遍的なティーンエイジムービーとなっているのが魅力的。そして唯一の日本映画、ロックバンドの追っかけ4人組の一途な想いが眩しい『私たちのハァハァ』は、松居大悟監督(『アズミ・ハルコは行方不明』『ちょっと思い出しただけ』ドラマ「バイプレイヤーズ」シリーズ など)のトークショー付き上映の回が楽しみ。親世代の映画も自分たち世代の映画も含まれているのがいいですね。映画館が、映画の中に描かれた青春や、記憶のなかに刻まれた青春について語り合う場所になったら素晴らしいです。

※上映スケジュールなど詳細はHUMAX公式サイトで

https://www.humax-cinema.co.jp/ikebukuro/news/66917/

燃えあがる女性記者たち

インドに残るカースト制度、その中でも最底辺といわれるダリトの女性たちが立ち上げた新聞社で、地域社会の現実を果敢に取材する記者たちのドキュメンタリーです。創刊は2002年ですが、デジタルメディアへの挑戦を試みる数年前から本作は始まり、慣れない動画操作に苦労しながら、やがては、違法労働の現場や地方選挙などジャーナリズムの最前線にスマートフォンを片手に堂々と分け入っていく彼女たちのなんて格好いいことか!

 


頼りになるリーダー、意欲の塊のメイン記者、愛すべきダメ新人など見事なキャラクターバランスも本作の面白さ。そして、自分の運の良さをわかっている彼女たちひとりひとりの、正義感に熱い以上に、この仕事ができて嬉しい、幸せという気持ちに溢れているところに魅了されました。インドのドキュメンタリーは初めて観ましたが、『あなたの名前を呼べたなら』『巡り合わせのお弁当』など凛として素晴らしい女性が登場する大好きなインド映画がいくつもあることも思い出しました。

ジョン・ウィック:コンセクエンス

幸せを奪われ復讐だけが生きる目的となった殺し屋の哀しみ、敵を始末しても新たな敵が現れる憎しみの連鎖…それらを体現するキアヌ・リーブスの、佇まいの格好良さにすっかりハマったシリーズです。第1作目の壮絶な悲劇のシーンに涙が出た時、ジョン・ウィックが自由を手に入れるまで必ず見届けることを決めました。

監督のチャド・スタエルスキーは、『マトリックス』シリーズでキアヌのスタンドダブルを務めた元スタントマン。キアヌの身体能力を最もよく知る監督による、美しい格闘シーンに興奮!そして、総勢500人にものぼるスタントマンが本シリーズで起用されたというのも、きっとこの監督だからこそ。真田広之やドニー・イェンのアクションも勿論見応えあるのですが、その他大勢の刺客たちひとりひとりの完璧な動きにも目を奪われました。

『雄獅少年/ライオン少年』

『雄獅少年/ライオン少年』、今年の映画マイベストテンに選出確定です。

格差社会の底辺でもがく少年の成長を獅子舞バトルを通して描くCGアニメ。夢中になれるものとの出会い、恩師の存在、友情、淡い恋愛、家族愛。心に突き刺さる素晴らしい成長譚です。主人公の少年のひたむきさには、何度も胸が熱くなりました。

今年は『BLUE GIANT』や『THE FIRST SLAM DUNK』など、アニメーション映画に興奮する年のようです。この映画もそれらの映画同様アニメならではの表現で現実を描写したり、音や熱気まで視覚化したりするところに興奮します。クライマックスの獅子舞バトル競技会の、観客もライバルチームもすべてがひとつになり奇跡が起きる瞬間のシーンの美しさ!一方で、半分破れた獅子の面から覗くむき出しの左目で少年の覚悟を見せたり、凛とした後ろ姿で成長を見せるなど、動ではなく静の表現力の強さにシビれました。

『君は行く先を知らない』『熊は、いない』

『熊は、いない』と『君は行く先を知らない』。2本のイラン映画を続けて観ました。

2010年に“イラン国家の安全を脅かした罪”で政府から20年間映画制作を禁じられながら、今も撮り続けているジャファル・パナヒ監督の新作『熊は、いない』。とある村に滞在する映画監督が偶然ある一瞬をカメラに収めたことで、村がざわつき始める・・・監督役をパナヒ自身が演じイランが抱える問題をあぶり出す、ドキュメンタリーのようでドラマティックなサスペンス。不屈の映画監督の熟練の技を感じます。映画名が巧妙で、観終わったあと、熊とは何かについてずっと考えさせられます。

パナヒ監督の長男パナー・パナヒの初監督作品『君は行く先を知らない』は、トルコとの国境を目指す家族4人と犬の車の旅。やがて家族の何気ない会話から旅の目的が見えてきます。この映画に凝った手法はなく、ストレートに彼らの状況が胸に突き刺さります。ただ一心にずっと彼らを見つめ、旅の終わりが不安になり続けました。終盤の、父と息子が星空を眺めるシーンの美しさが印象的です。

『グランツーリスモ』

レーシングシミュレーションゲームのチャンピオンは、本物のプロレーサーになれるのか?その問いに10代天才ゲームプレイヤーが答えを出すという実話ベースの映画。予測不能な命懸けの勝負に挑むレーサーたちの生身の格闘と、確実に勝ちが予測できるまで磨き上げるプレイヤーたちのスキルとセンス、どちらも優劣なく凄いという描かれ方が気持ちいい後味に繋がります。

監督は南アフリカヨハネスブルク出身のニール・ブロムカンプ。監督デビュー作『第9地区』の逃げ場のない隔離地帯の息苦しさは強烈でしたが、本作のレースシーンの没入感も、一体どうやって撮影しているのだろうと驚きの連続です。一方、他者を認め合うことの難しさもリアルに描かれていて、ゲームプレイヤーを見下すレーサーは最後まで態度が変わりません。この監督の作品は、一貫して他者との共存は果たして本当に可能なのかと皮肉めいて問いかけてくるように思います。

主人公を演じるアーチー・マデクウィがいい!勝負の世界には、それまでの空気が一瞬で変わるような追い風が吹く瞬間がありますが、この映画で“その瞬間”が来た時の、彼の表情がそれまでとは違ってぐっと凄みを増したシーンが目に焼き付きました。

『まなみ100%』

まなみのことが100%だったボクの、高校1年から10年間を綴った青春映画。高校時代、大学時代、現在までの10年間で多くの出会いと別れを経験しても、まなみに対する「好き」は変わらない。ボクにほぼ100%監督自身を投影した実話だそうです。

見返りは求めない、いてくれるだけで生きててよかったと思える、幸せのすべて。そんなアイドル論を思い出しました。そしてボクにとってまなみは、アイドル的存在では決してなかったと確信。なぜなら、まなみと想い出を作るたびに、ボクはまなみへの気持ちに戸惑ったり困ったり、まなみから言われた言葉でうじうじしたりするからです。

「きれいのくに」の青木柚と『アルプススタンドのはしの方』の中村守里が主演。これは観たい!池袋HUMAXシネマズでの舞台挨拶付先行上映に行ってきました。監督の話から、実はとても重要な展開が実話とは違っていたことを知りびっくり。

エンドロールに流れる大槻 美奈「道標」。「心躍る人に出会う時 私が私になってゆく あなたはいつまでもみちしるべ」…いい歌詞です!

9月29日から劇場公開です。

『エリザベート1878』

先日、女優のヘレン・ミレンがエリザベス2世の「14番目のいとこ」だったことが家系調査で判明したというニュースを知り、映画『クィーン』のヘレン・ミレン=エリザベス2世を久々に観たくなりました。ケイト・ブランシェットの『エリザベス』、ジュディ・デンチの『Queen Victoria 至上の恋』など、歴史上の女王や皇妃を知るきっかけになった映画がいくつもあります。

本作では、オーストリア皇妃の、生涯における“1878年の1年間“が描かれます。原題は仏語でコルセットの意の『Corsage』。欧州宮廷一と言われた美貌と、身長172cm・ウエスト51cm・体重45kgという驚異の体形の持ち主の彼女が、コルセットでウエストを更に5cmも締め上げるシーンが何度も登場し印象を残します。

派手な恋愛体質で、厳格さに抗い自由奔放で周囲を翻弄するトンがった生き方の彼女ですが、40歳になった1878年を人生を達観し始めた年として描かれ、美貌と痩身の維持も美に執着した若き日とは変わり「皆が私に持っているパブリックイメージを守ってあげようじゃないの」と周囲を嘲笑いながら楽しんでいるのが面白い!夫、愛人、女中、子供たちとの関係も濃密で複雑ながら可笑しみも含んで描かれ、1878年=145年前という時代を感じさせない、エリザベートという独創的な女性像にどんどん興味が湧いた2時間でした。

『あしたの少女』

ペ・ドゥナを見るのが楽しみでした。『ほえる犬は噛まない』での圧倒的な存在感に一瞬で虜に!山下敦弘監督が惚れ込んで起用したという『リンダ リンダ リンダ』や、アクションやコメディセンスもあることを証明した『グエムル 漢江の怪物』でもそうでしたが、いつも眉間にシワを寄せて苛立っているような困っているような顔が印象的、正義感の強い役を凛々しく愛らしく、控えめだけど情熱的に演じる女優です。

本作は、2017年に韓国で起きた事件の映画化。実習先の企業の過酷な労働条件の犠牲になった女子高生の実話で、観てて、とてもつらくて苦しくなります。

それでも、実際の事件を忠実に再現する前半と、実在のジャーナリストをモデルにした架空の女性刑事を登場させ、事件の本質に迫る後半の2部構成仕立てが素晴らしく、引き込まれます。そして、やはり何と言ってもペ・ドゥナ。あるシーンでの、大粒の涙を流す泣き顔が目に焼き付きました。彼女の演技を見れた嬉しさに浸りながら映画館を出ました。