連載⑬ミニシアター系映画史2002年

2002年単館公開作品都内興収ベストテン

【1】『アメリ』/シネマライズ

【2】『メメント』/シネクイント

【3】『エトワール』/Bunkamuraル・シネマ

【4】『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』/シネマライズ

【5】『es[エス]』/シネセゾン渋谷

【6】『おいしい生活』/恵比寿ガーデンシネマ

【7】『元始、女性は太陽であった 平塚らいてうの生涯』/岩波ホール

【8】『ディナーラッシュ』/シネスイッチ銀座

【9】『アマデウス ディレクターズ・カット』/テアトルタイムズスクエア

【10】『青い春』/シネマライズ

 

 人を幸せにすることとクレームブリュレの表面をスプーン割ることが大好きなヒロインが、恋をして幸せになる『アメリ』。レッド、イエロー、グリーンの色彩が放つキュートでシュールな世界観に多くの人が心を掴まれました。『アメリ』は、シネマライズで前年11月から35週の超ロングラン公開を記録しましたが、同時期に向かいに位置するシネクイントでロングラン公開していたのが『メメント』です。

 結末から遡る革新的な構成が話題となった『メメント』は、10分しか記憶を保てなくなった男がポラロイド写真とメモとタトゥーに必死に今を残し記憶をたどり続けます。彼が忘れることを最も恐れたのは、自分が妻の復讐のために生きているということ。クリストファー・ノーラン監督の才能に度肝を抜かれたこの年は、ノーラン同様21世紀映画史上重要な監督たちの初期傑作の数々が公開しました。サム・メンデス『ロード・トゥ・パーディション』、ウェス・アンダーソン『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』、リチャード・リンクレイター『ウェイキング・ライフ』、フランソワ・オゾン『まぼろし』、そして、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが親友のアルフォンソ・キュアロンとギレルモ・デル・トロの協力を得て仕上げた初監督作『アモーレス・ペロス』。互いの映画を無償で助け合ってきた3人のメキシコ人映画監督は、見事に揃って近年のハリウッドを席巻する存在となりました。

 『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』は、欠けたカタワレを探し性も国境も超える、エモーショナルなロック・ミュージカル。「人の存在意義は愛し愛されること」と語りかけるジョン・キャメロン・ミッチェルの歌声と、インディペンデント・スピリッツが全編に溢れるこの映画は、日常から離れた空間で他の観客たちと時間を共有する1度きりのライブのような楽しみ方こそが一番だと言えるでしょう。

 『アマデウス ディレクターズ・カット』は、1985年公開版から約20分のカット場面が復元。サリエリの嫉妬やモーツァルトの憔悴が具体的にはっきりと理解できるシーンがいくつか追加されましたが、それらを追加する必要などない程卓越した人物描写と演技力の傑作だったことに改めて気づかされました。素晴らしい映画をもう一度観る、あるいは観逃した人や初めて観る人の“きっかけ”となる上映は大いに意味があり、その役割を多くのミニシアターが担っています。

 『おいしい生活』はウディ・アレンの監督31本目。この年の、米同時多発テロ後初のアカデミー賞授賞式に、ニューヨークが舞台の映画を振り返るコーナーのプレゼンターとしてウディがサプライズ登壇しました。『アニー・ホール』で作品賞を受賞した時ですらホテル カーライルのパブでクラリネットを吹く習慣を優先した彼にとって、最初にして恐らく最後の出席だったはず。ウディ節炸裂のスピーチを飄々と終えたあと華やかな場からさっさと立ち去ってしまったそうですが、ニューヨークを愛してやまない彼からの、暴力の連鎖に対するひとつの回答だったのだと思います。